『毛玉三郎』と私。

部屋の隅で、ホコリと抜け毛がマリモみたいに育っている。

ホコリと抜け毛がフワフワと合体し、もはや「マリモ」と呼べるレベルまで立派に育っているのだ。
視界の端でゆらりと揺れるそのシルエット。

「おっ、今日も順調に育ってるね。名前でもつけようか? 『毛玉三郎』とかどう?」くらいの余裕(という名の完全放置)を見せつけてやる。

だって、マジでめんどくさいのだ。
スマホの充電器はあそこにあるのに、手を伸ばすのすらダルい。
バッテリー残量10%の通知を意思とは無関係に華麗にスワイプしているのだ。

掃除なんて、明日の私がマッハでやればいい(たぶんね)」

明日できることは、今日絶対にやらない。それが私のニューノーマルであり、生存戦略。

顔面には、ひたひたに美容液を吸い込んだパックが、まるでもう一枚の皮膚のように張り付いている。この重みが心地いい。
剥がすのすらめんどくさいけれど、このままショート動画の無限ループに突入するのが、今夜の私の「正解」だ。 スワイプ、スワイプ。

画面の向こうで誰かが踊り、誰かが料理し、誰かが猫と戯れている。
バッテリー残量はついに一桁に突入し、充電器までの2メートルは依然として光年単位の距離があるけれど、そんなの知ったことか。

今この瞬間の「お疲れさま、私」という自愛だけは、今ここで注いであげなきゃ、明日には心がカッサカサの砂漠になってしまう。

自分をケアする時間をケチってまで「正しい生活」を優先するのは、自分の魂を無視するのと同じ、最大の背信行為なのだ。

そんな当たり前の、でも最高に大切なことに気づけた今夜の私は、文句なしの120点満点。
ふと鏡に映った自分。

髪はボサボサ、顔は白いパックで覆われていて、お世辞にも「丁寧な暮らし」とは言えないけれど、その奥で肌だけはツヤっと生命力を取り戻そうとしている。

そんな自分を見て、満足のため息をつく。

明日の朝、巨大化した「毛玉三郎(マリモ)」と目が合ったら、その時にまた絶望の淵に立って、掃除機と格闘すればいい。